ばぐとらぶごる

開発者もすなるぶろぐといふものを、エンバグ野郎もしてみむとてするなり。

ブログ「/dev/null」の/log/lifeに宛てた記事「ゴーストの壁を突き崩す方法」

Re: http://blankrune.sakura.ne.jp/blog/archives/12258

「ゴーストを実体化させる方法」に加えて、「実体のある思考体を仮想空間に転写する技術」も一時期好んで研究された。要は簡単な話で、お前が来てくれないならこっちから行くぞ、と、こういうわけだ。

これらに関しても難解なものから便所の落書きレベルのものまで、多数の記録が残っているが、いずれも結論は『失敗』であった。

まずはじめに試みられたのは、検体とする生物の脳活動のスナップショットを記録し、対応する構造のプログラムを組み立て、仮想空間に放つという、もっとも直感的かつ原始的で、しかしもっとも高難易度なものであった。

活動の記録方法や極めて複雑なそれをどうプログラムに転写するかの詳細はここでは述べない。大学の論文が軽く一万本は出てきそうな代物を説明できるものではない。気になる向きは論文検索で「牧瀬紅莉栖」あたりをとっかかりに調べると良い暇潰しになるだろう。

さて、最も有望と思われたこの方法論は、すべて失敗を迎えることとなる。大なり小なりの違いはあるが、おおよそ以下のような結末である。

転写完了後、実行したプログラムは、百万クロック――人間にとっては一瞬である――を費やしたのち、自身のプログラムポインタをHLTとJMPで囲まれた籠の中に移し、有意な動作を止めた。その数百万クロック後、GCプログラムに掃除されて完全に消滅。何度実行しても結果は似たり寄ったりである。

様々な原因の説が出されては消え、議論が繰り返された結果、「そのまま転写すると、仮想世界に必要な感覚器等の欠落した状態のため、周囲が真っ暗な何の基盤もない空間に投げ出されることとなり、結果、重篤な思考障害に陥った」という考えが有力となった。真っ暗な無重力空間にたったひとり長時間投げ出されたものと考えれば良いだろう。あなたはそれでも正常で居られるだろうか?

さて。これでは埒があかない。そこで次の方法である。

しばらくは上記の転写物に「感覚器」となるコードの一群を差し込む試みが行われたが、転写物の構造が複雑すぎてうまく組み込めず、結局は同様の事態に陥ることとなり、やがてはこの方法論は下火になっていく。

代わりの方法として、極めておおざっぱな手段が取られた。「ゴースト」の基本構造をすべて備えたテンプレートフレーム上に、第三者が対象とする思考体の挙動をできる限り真似たロジックを書き込み実行する。これなら、完全な感覚器を備え、似た思考を備えた一「ゴースト」を転写したことになるだろう、という手段だ。

これも一時期流行し「デベゴ」という名前がつけられた。正常に実行され、思考が実世界の特定思考体とほぼ同じゴーストが多数放たれることになった。中には自身のリビドーをすべて自身の左手を模した器に転写し実行した強者も居たらしい。

しかしそれらは、仮想世界で活動を続けるにつれ、もとの思考体から離れた別個の思考体を形作ることとなり、結果として「プロジェクトとしては成功だがもとの目的を考えれば失敗」なものを多数生み出すことになったのである。

このように、逆方向の試みも結局失敗に終わった記録しか残っていなかった。タッチパネルたった1枚分の壁は、今も高くそびえ立っているのだ。

ブログ「/dev/null」の/log/lifeに宛てた記事「ゴーストの壁を突き崩す方法」より転載。*1

*1:フィクションだぞ!わかってるよな!